「井戸を掘った人を忘れるな」という言葉があります。井戸の水を飲むときには、井戸を掘った人の苦労を思え、というのがもともとの意味です。

 拡大して解釈すると、もの事の初めは一番苦労するので、苦労した人のことを、いつまでも忘れるなということです。改めてこの言葉は全ての事柄において、継続、さらに発展するために大切にしたいと思うのです。

 さて、では、このような文化や思想をつくったのは誰なのでしょうか?日本はとても分かりやすい系統譜的には万世一系の国です。そうです。天皇陛下のご先祖様で、初代天皇の神武天皇です。紀元前660年頃です。神武天皇建国の詔というのがあり、この中に日本の原点となった二つの思想があります。

 ひとつは「養生」という思想です。これは結果よりも、到るまでのプロセスの中に価値があるという考え方であり、そのことが成そうが成るまいがより良いものを目指して、自分が最高に燃焼し切ることに価値があるという思想です。「武士道」は正にこの流れであると言えます。

 もうひとつは「利民」という思想です。これは歴史的に見ても日本にしかない、縄文時代からの世界に一つの思想と呼ばれています。「民を利する」ということであり、民主主義の大本の言葉であり、人は全て根源的に平等であるという社会を創り上げることができた由来でもあります。日本が高貴さにおいて、世界に冠たる民族と呼ばれるのも、この神武天皇の血を受け継いでいるからに他なりません。

 さて、わが社を振り返ってみたいと思います。井戸を掘ったのは、6年前に逝去された磯野俊雄会長です。会長の原点とも言える「信用無形資産也」という言葉を座右の銘にして、多くの方々にこの言葉が掘られた金文字の額を送っていました。その言葉通り、時間等の約束を決して破ることのない「信頼」ということをとても大切にしていました。それに加えて「来る人、来る人、福の神」です。取引先の社長の運転手さんにも、宅配のドライバーさんにも、いつも優しく労いの言葉を掛けていました。井戸を掘った本当に苦労された方は、人の機微が手にとるようにわかるようですね。故磯野会長に敬意を払い、日々会う方々を福の神のように大切にしていくことが、わが社の社員として、「井戸を掘った人を忘れない」ということではないでしょうか。
合掌